【活動記録】令和8年度 依存症関連教職員対象研修「子供たちの身近な依存症と教員が知っておくべき思春期心性」に登壇しました(2026年5月18日)

2025年5月18日、大阪府立淀商業高等学校にて開催された「令和8年度 依存症関連教職員対象研修」において、グローバルレジリエンス代表・池田俊一郎が「子供たちの身近な依存症と教員が知っておくべき思春期心性」をテーマに講演を行いました。本記事では、講演の内容と当日の様子を詳しくご報告します。


開催背景・連携の経緯

近年、10代・20代の若者における薬物乱用、スマートフォン・ゲーム依存、自傷行為などが深刻な社会問題となっています。学校現場の教職員が子どものSOSをいち早く受け止めるためには、依存症のメカニズムや思春期の心理的特性を正しく理解することが不可欠です。

グローバルレジリエンス代表の池田俊一郎は、関西医科大学 精神神経科学教室での臨床経験を持ち、海外赴任者のメンタルヘルス支援においても依存症という課題と向き合ってきました。海外では孤独感や文化的ストレスを背景に、アルコール依存症や違法薬物乱用に陥るケースが後を絶ちません。学校現場と企業現場の双方で共通するこの課題に、専門家として貢献したいという思いから今回の講演に至りました。


講演内容

① ドーパミンと依存症のメカニズム

講演の冒頭、池田は「なぜ人は依存症になるのか」という根本的な問いを参加者に投げかけました。その答えはシンプルでありながら本質を突くものでした——「人間だから」です。

依存症の中核には「ドーパミン」という神経伝達物質の働きがあります。1954年にオールズとミルナーが発見した「脳内報酬系」によれば、ドーパミンは楽しいことをしているとき、目標を達成したとき、他者に褒められたとき、恋愛感情を感じているときなど、日常のあらゆる場面で分泌されます。やる気や意欲の源となる一方で、薬物依存と全く同じメカニズムで作動するのです。

依存症は大きく「物質依存(アルコール・たばこ・覚せい剤など)」と「プロセス依存(ギャンブル・買い物・ネットなど)」に分類されます。また、「乱用(使用上のルール違反)」「依存(コントロール障害)」「慢性中毒(ダメージの蓄積)」という段階的な進行についても、わかりやすく解説していただきました。

② 自己治療仮説

依存症に陥りやすい人の特徴として、池田は1980年のブルース・アレクサンダーによる「ネズミの楽園の実験」を紹介しました。孤立した環境のネズミは薬物に依存しやすくなる一方で、豊かな環境で仲間と生活するネズミは依存しにくいという知見は、依存症が「孤独の病」であることを示しています。

依存症患者に共通する特徴として、以下が挙げられました。

  • 自己評価が低く、自分に自信が持てない
  • 人を信じられない
  • 本音を言えない
  • 見捨てられる不安が強い
  • 孤独で寂しい
  • 自分を大切にできない

そして1985年、心理学者カンティアンが提唱した「自己治療仮説」が紹介されました。依存症者が依存にふける理由は快楽を求めるためでも自己破壊衝動によるものでもなく、「耐えがたい苦悩や苦痛を抑え、緩和しようとする自己治療の行動である」という視点は、支援者が依存症者を理解するうえで非常に重要な概念です。

③ 発達理論からみた思春期心性

エリクソンの「心理社会的発達理論」を軸に、0歳から老年期までの発達段階が丁寧に解説されました。特に13歳〜19歳の青年期については、「自分は何者なのか(アイデンティティの確立)」を巡る深い葛藤と、親からの自立(第二次反抗期)を伴う時期であることが強調されました。

思春期に出現しやすい症状としては、こころの面(いらいら・集中力低下・ゆううつ)、からだの面(疲れやすさ・不眠・胃痛)、行動面(ひきこもり・衝動買い・気晴らし食い)などが挙げられ、拒食・対人恐怖・強迫症状・不登校・引きこもりなど多彩な形で現れることも説明されました。

小中高生の自殺者数が増加傾向にあること、リストカット経験者が中高生の約1割にのぼること、自傷行為が将来の自殺企図リスクを大幅に高めることなど、現実の厳しいデータとともに、教職員が日常のかかわりのなかで変化に気づくことの重要性が伝えられました。

④ スマホ・ゲーム依存の実態

ネット依存が疑われる中高生が93万人にのぼり、5年間で倍増しているというデータが示されました(厚労省研究班)。スマホ依存症の症状として、依存・禁断症状、うつ病・パニック障害、不眠症、視力低下、ストレートネックなどが挙げられました。

WHO(世界保健機関)が定めた「ゲーム障害」の診断基準についても解説があり、「ゲームをする時間をコントロールできない」「ゲームを他のどんなことよりも優先する」「問題が起きてもプレイをやめられない」状態が12ヶ月以上続く場合に診断される可能性があるとのことです。

また、セルフチェックリストが紹介され、「スマホのせいで睡眠不足になっている」「食事中やお風呂でもスマホを持ち込む」「注意されると激しく怒る」など10項目のうち5つ以上当てはまる場合は依存症の可能性が高いとされています。

⑤ SOSの受け止め方

「泣いている赤ちゃん」のたとえを用いて、子どもの問題行動を「氷山の一角」として捉える視点が示されました。表面に見える行動の背景にある感情・環境・発達的特性を丁寧に観察・アセスメントすることが、支援の第一歩です。

自傷行為への対応として、「頭ごなしに禁止しない」「援助希求行動を支持する」「懸念を伝える」という原則が強調されました。自傷行為には耐性が生じるため、放置すると「切ってもつらいが、切らなければなおつらい」状態に陥る危険性があります。

また、危機的状況への対応として「TALKの原則」が紹介されました。

(1)Tell:誠実な態度で話しかける
(2)Ask:自殺についてはっきりと尋ねる
(3)Listen:相手の訴えに傾聴する
(4)Keep safe:安全を確保する。一人にしない文部科学省「教師が知っておきたい 子どもの自殺予防」より

⑥ 行動変容ステージ

依存症からの回復を支援するうえで、「行動変容ステージモデル」の理解が不可欠であることが解説されました。無関心期・関心期・準備期・実行期・維持期という5段階のステージに応じて、関わり方を変えることが効果的です。

無関心期の人に対しては成功例を伝えて「まずい」と思うきっかけをつくること、関心期の人には「これくらいならできるかも」と思えるポジティブな目標を提案すること、準備期の人には失敗しない行動計画を一緒に立てること——それぞれの段階で、支援者に求められるアプローチは異なります。

講演の最後に池田はこう述べました。

人を信じられるようになると、人に癒されるようになります。人に癒されるようになると、薬物に酔う必要はなくなります。薬物問題は人間関係の問題です。回復とは、信頼関係を築いていくことです。


講演を終えて

今回の研修を通じて、依存症という問題が決して「意志の弱い人の問題」ではなく、孤独・自己評価の低さ・耐えがたい苦痛という人間的な苦しみの延長線上にあることを、参加者全員に伝えることができたと感じています。

教職員の方々からは、「子どもへの見方が変わった」「自傷行為への対応で禁止ばかりしていたことを反省した」「SOSをもっと早く気づけるようになりたい」といった声をいただき、現場での実践に直結する学びとなりました。

グローバルレジリエンスとしても、こうした専門的な知見を学校・企業・地域社会に届ける活動を今後もさらに充実させていく意欲を新たにしました。


まとめ

今回の講演で伝えた「依存症は孤独の病である」というメッセージは、学校現場にとどまらず、グローバルレジリエンスが日々支援する海外赴任者の問題とも深く重なっています。孤立した環境・見知らぬ文化・言語の壁といったストレス下で、依存症リスクは大幅に高まります。アルコールであれスマホであれ、その根底にある苦しみに気づき、信頼できる人間関係を築いていくことが、回復への道です。

教職員・企業・地域が連携し、子どもも大人も「SOSを出せる環境」をつくっていくことが、これからの社会に求められていると改めて実感した一日でした。

【グローバルレジリエンスからのお知らせ】


グローバルレジリエンスは、海外赴任者・帰国者およびそのご家族のメンタルヘルス支援を専門とする団体です。今回ご紹介した依存症の問題は、海外赴任の現場でも深刻な課題となっています。見知らぬ国での孤独・文化的ストレス・言語の壁がアルコール依存症を引き起こすケースは少なくなく、現地で蔓延する違法薬物への接触リスクも国内に比べて格段に高まります。孤立した環境のなかで薬物依存に陥り、帰国後も苦しんでいるケースも多く見受けられます。グローバルレジリエンスでは、企業の海外赴任者メンタルヘルス研修、帰国後のサポート、そして依存症を含む精神的問題への相談対応を行っています。「うちの社員が現地でお酒の量が増えている」「赴任中のストレスで追い詰められているようだ」など、ご不安な点がございましたら、お気軽にご相談ください。研修・講演のご依頼も承っております。

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