EAPが海外赴任者に届かない5つの理由|HR担当者が知るべき課題と対策

EAPを導入している企業ほど、「海外赴任者には使われていない」という現実に直面している。制度があるのに届かない——その構造的な理由を整理し、問い合わせにつながるための実践的な視点をお伝えします。


「制度はある。でも、海外赴任者には届いていない」

従業員支援プログラム(EAP:Employee Assistance Program)の導入率は、国内大手企業を中心に年々高まっています。メンタルヘルス不調への対応、相談窓口の整備、ストレスチェック後のフォローアップ——これらを一括して担うEAPは、今や多くの企業にとって「あって当然」のインフラとなりつつあります。

ところが、海外赴任者に関しては様相が異なります。HRご担当者からよく聞かれるのは、こんな言葉です。

「EAPは契約しているんですが、海外の社員からはほとんど使われていないんです。何か手を打ちたいとは思っているんですが……」

この悩みは、決して一社だけのものではありません。むしろEAPを持つ企業ほど、この課題意識が明確に存在するという傾向があります。なぜなら、制度があることで「問い合わせが来るはず」という期待値が生まれ、それが現実と乖離したとき、初めて課題として認識されるからです。


なぜEAPは海外赴任者に届かないのか

EAPが機能しない理由は「制度の問題」ではなく、「前提設計の問題」であることがほとんどです。以下に代表的な要因を挙げます。

① 言語・文化的なバリア

日本のEAPサービスは、基本的に国内在住者・日本語話者を前提として設計されています。海外赴任者がアクセスしようとすると、「窓口が日本時間のみ対応」「現地語でのカウンセリングが受けられない」といった壁に突き当たるケースが少なくありません。メンタルヘルスの相談は、母語でなければ本音を話しにくいという特性があります。言語が壁になれば、利用はおのずと遠のきます。

② 時差と物理的距離

本社ベースの相談窓口を、たとえば欧米赴任者が就業時間内に利用しようとすると、現地時間では深夜や早朝になることがあります。「緊急でもないのにわざわざ深夜に電話をかける」というハードルは、不調を抱えながらも相談をためらわせる大きな要因です。オンライン対応が可能なEAPであっても、時差の問題は想像以上に利用率に影響します。

③ 孤立した環境での「相談していい」という感覚の欠如

海外赴任者は、多くの場合、限られた日本人コミュニティの中で生活しています。「自分が相談したことが会社に知られるのではないか」「弱音を吐いたら評価に影響するのではないか」——そうした懸念は、国内社員よりも強く働く傾向があります。赴任先では人間関係が凝縮されており、プライバシーへの不安が利用の心理的障壁になります。

④ 「自分はEAPを使っていい立場なのか」という認識不足

EAPの案内が国内向けに設計されている場合、海外赴任者が「自分も対象なのか」を明確に認識できていないことがあります。赴任前の説明が不十分なまま渡航し、現地で不調が生じても「EAPを使える」という発想に至らないケースは、実際の相談対応の現場でもよく見受けられます。

⑤ 赴任中の「ストレス正常化」という心理

海外赴任そのものが「大変なもの」として社内で認識されている場合、赴任者本人も「これくらいのストレスは当然」と感じ、相談のタイミングを逃してしまいます。不調の自覚が遅れるほど、回復にも時間がかかります。早期の接点が持てないことが、後になって深刻なケースとして顕在化するリスクにつながります。


制度を持つ企業ほど「課題意識が高い」という逆説

EAPを導入していない企業では、そもそも「届かない」という問題は発生しません。課題意識が生まれるのは、制度を整えようとした企業が、「整えただけでは不十分だ」という現実に気づいたときです。

これは、決してネガティブな状況ではありません。

制度を持ち、課題を認識している企業は、すでに「問い合わせにつながりやすい状態」にあるとも言えます。なぜなら、相談窓口の存在を前提とした上で、「どうすれば使ってもらえるか」という問いに取り組む姿勢が社内に醸成されているからです。あとは、届け方を変える——それだけで、利用率は大きく変わる可能性があります。


問い合わせにつながるための視点

海外赴任者へのEAP活用を促すためには、「制度を知らせる」だけでなく、「使えると感じてもらう」設計が必要です。以下は、実際に効果が見られているアプローチの方向性です。

赴任前の「メンタルヘルス準備研修」への組み込み

渡航前の研修に、EAPの使い方と「使っていい場面」の具体例を組み込むことで、赴任者の認識が変わります。「こんなときに使える」という具体的なシナリオを伝えることが重要です。

赴任後の定期的な接触機会の設計

問題が生じてから相談するのではなく、赴任後1か月・3か月・6か月といったタイミングで、HR担当者または産業保健スタッフが能動的に連絡を取る仕組みを整えることが有効です。「相談窓口を使う」ではなく、「話す機会がある」という体験の積み重ねが、いざというときの行動につながります。

「日本語・日本時間対応」の補完策の検討

既存のEAP契約を見直すか、海外赴任者向けに特化した別途のサポートを組み合わせることで、時差・言語の壁を下げることができます。一人ひとりが「自分のために用意されている」と感じられる仕組みが、相談のハードルを下げます。

管理職・上司への教育

現地の直属上司(または遠隔の管理職)が「不調のサインに気づき、適切に相談を促せる」スキルを持つことは、EAP利用の入り口として機能します。管理職研修にメンタルヘルスの視点を加えることが、組織全体の早期対応力を高めます。


まとめ:「届く制度」への問い直し

EAPは、存在するだけでは機能しません。特に海外赴任者のように、物理的・心理的に本社から切り離された環境にある社員には、「届けるための設計」が必要です。

制度を持つ企業が課題意識を持つことは、すでに正しい方向への一歩です。その課題意識を、具体的な「届け方の改善」へとつなげていくことが、HR施策としての次のステップになります。

海外赴任者のメンタルヘルス支援に取り組む上で、EAPの活用促進は決して難しい課題ではありません。大切なのは、制度の「設計」ではなく、「運用」の見直しです。ぜひ、今の自社の仕組みを一度振り返ってみてください。


※本コラムは、海外赴任者のメンタルヘルス支援に関わる企業HR担当者・産業保健スタッフの方々に向けて作成しています。個別のご相談・お問い合わせは、お気軽にお問い合わせフォームよりご連絡ください。

\ 最新情報をチェック /

Global Resilienceでは、

  • 海外赴任前のメンタルヘルス支援
  • 駐在員・帯同家族支援
  • 管理職向けラインケア
  • 復職・帰任支援
  • 企業向け研修

などを行っています。

「まず相談したい」
「制度化できるか知りたい」
という段階でも対応可能です。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です